〜鉄〜・1
2003年7月5日黄昏の“世界”、ずっとこんな空間に存たいと少年は思っていた。
日々に感謝していたし、ずっと平和が続けばいいと思っていた。
ピーっ、ピーっ
目覚まし時計のアラームが、少年の耳に響いく。
「・ん・・」
ベッドの棚に置いてある時計に手を伸ばす少年。
時計のアラームを解除して、少年は度の少し高いメガネを掛けた。センスのいい、明るい黒の縁メガネだ。
ベットの掛け布団から脱け出して、ストライプのトランクス一丁の姿になる。
髪はショートで、寝起きでボサボサしていた。洗面台のある1階まで黒いレトロなドアを開け階段を下りてゆく。
家族は皆、もう既に出かけている。両親は父さんの会社の有休を使えとのことで、パートの母さんと一緒に湯布院辺りの温泉に旅行に行ったらしい。お金は、帰るまでの一週間分を貰った。それから妹は、感慨すべき帆鳥中学校1年の部活でいない。帰るのも遅いだろう・・・
少年は階段を下りて、洗面台へと廊下を歩く。ドアを開け、鏡の付いた洗面台へと進む。
1コインのセット・ウォーターを適当に吹いて寝癖を直す。
それからまた自分の部屋に上がってクローゼットを開ける。もう、着ないと思うと哀愁を感じる帆鳥中学の学生服。
「今からは、この服か・・」
ブレザー調の、決して地味ではないが不思議な色調をしたブルーの色合いをしている。
A.D.2057------ 日本 JAPAN・・・九州、熊本市新合併風致区[風鈴]AM7:23
登校。初日の高校への道は、近かった中学校への道のりとは違うんだな・・なんてことを思う。
ほとんどの友達や同級生は、疎開という世界へと旅立った。
「いい、風だ」
少年は、歩きながら空を見上げた。そして、一瞬顔が強張った。
その瞬間。
ウ〜−−−!!
何処からか、甲高いサイレンが鳴りはじめる。
何が起こったのか、事態を理解出来ない少年は、空を半々と覆う物体を眼にしていた。
「なんだ、あれ?」
眼の上を、高々と舞う戦闘機らしきものを見る少年・・
同刻AM:7:23 熊本、自衛隊局地局
≪F-20[サンダー・チーフ]、F-30新型複座型戦闘機[秋風]が、敵機[EJ]と哨戒空域で遭遇、交戦しています。敵機[EJ]に攻撃を仕掛けるも、汎用兵器では通用しません≫
オペレーターの声が独りの、長身のヨレヨレの軍服を着た、髪をボサボサにした不恰好な姿の男のイヤーマイクに届く。
左胸のポケットに刺繍で、“杉田”と書いてある男は、眠たそうに
「“アドバンスド・デバイス”の出撃を発令、機動型遠距離装備でだ。ヒナタはA型装備で出撃だ」
≪A型装備でですか?≫
「そうだ。地上市街戦が予想されるからな。思慮しろ。何かあれば、すぐに転進だ」
≪・・・承認完了。アドバンスド・デバイス、GOサインが出ました。各自、機動型遠距離装備、A型装備で出撃してください≫
「うわああ!!!」
少年の後方で、叫び声がこだました。
「なんだ?」
体が強張るも、振り返る少年。
そこに存たモノとは・・・・
続く
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